きこりの森林・林業の教科書


③生活を守る森林って何?

概要 森林の機能 保安林制度 治山 生活を守る樹木 流木対策
保安林の種類
補助金申請
導入の必要性
治山技術
肥料木
根系別
耐潮性
耐風性
耐火性
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災害について
1.災害の種類
パターン 誘因 種類
気象災害 豪雪
強風
竜巻
台風
豪雨
前線性豪雨
地震
火山噴火
雪害 雪崩
地すべり
風害 風倒
建物崩壊
高潮
水害 洪水氾濫
土砂災害 山腹崩壊
崖崩れ
地すべり
土石流
流木0
地盤災害 地震災害 津波
建造物崩壊
液状化
火山災害 火砕流
火山泥流
溶岩流
融雪泥流
降灰

2.天災と人災
 地震や噴火等の自然現象によって、対処出来ない被害については天災となり、「何らかの対処できたのでは」と考えることが出来る被害が、人災です。このため、事前にわかっていながら、対応せずに被害が出れば、人災となります。過去の経験から、この程度では大丈夫と判断し、結果、過去を上回る自然現象が起こり、被害を受けた場合は、人災とは呼びません。
 第二次世界大戦後、日本の自然災害、特に風水害による犠牲者は、他の国と比べても、日本の歴史上、非常に減少しています。これは、様々な対策が行われ、特に、洪水調節ダムが、川の上流部に出来た結果です。しかし、その一方で、災害に遭うという危機感が薄らいでいます。災害多発地だったときは、事前に避難することが当たり前だったのですが、多少の豪雨や地震では避難しなくなりました。避難勧告が出ていても、勝手に大丈夫と判断し、家に留まることもあります。その結果、避難しない事による被害も発生しています。自然災害の被害を軽減できるかは、人の防災意識に左右されます。
 ハード面の強化も不可欠ですが、ソフト面を強化しなければ、人災を生み出し続けてしまいます。

3.これまでの水害対策
 これまで、水害が発生すると、堤防を越えて水が溢れる、堤防が破壊されました。この為、堤防を高くする、堤防を強化することが行われてきました。これが一番素早い対策方法でした。また、堆砂によって河床が上がるため、堤防を守り越水が発生しないように浚渫することも行われました。浚渫しなければ、河床に土砂が堆積し、堤防との高さが徐々に狭まり、増水時に氾濫するからです。この為、浚渫することで、河床を下げ、増水時でも耐えられる堤防として整備してきた歴史が世界中にあります。しかし、これらは土砂の発生源を改善するわけではないため、一種の対症療法となっています。洪水の多い場所では、周囲よりも高い位置を流れる天井川となっている箇所も多いです。中国河南省を流れる黄河では、何度も治水を行った結果、天井川になっています。日本でも、沢山の天井川があります。天井川は、人の手が入った人工物です。天然では出来ません。また、堤防を守るための工事として、制水工も行われてきました。


堤防下は、床固めによる制水工。水の勢いを弱め、堤防を守ります。中州に見えるのは、水の流れを7:3に分けるための石積みの水制工です。写真は、広島県の太田川ですが、何度も水害の被害を受けたところです。




4.土砂はどこから
 洪水を起こす堆積された土砂は、洪水発生地ではなく、遙か上流の地域から流れ込んでいます。元々、岩が、風化によって礫になり、小石、砂もしくは粘土に細粒化していきました。太陽光からの熱による膨張と収縮の繰り返しや、風雨によって物理的、科学的に変化し細粒化していきます。発生地では、風化によって岩が細粒化され、渓流に流れ込みます。また、植物が侵入する過程の中で、有機物が蓄積し、土壌になります。


風化の種類
機械的風化
(物理的風化)
載荷荷重の除去に伴う割れの顕在化 地中深くにある岩石が、地表ないしは地表近くに移動したときに、周囲の圧力から解放されることで潜在的にあった割れ目が顕著化したり新たな割れ目を生じて、礫塊を遊離すること。
熱(気温)による風化 岩石が露出することで、高温による膨張と、低温による収縮によって、表層と内部にせん断応力が働き、割れ目が生じる。なお、造岩鉱物の種類によって膨張係数が異なる。
凍結(氷の作用)による風化 岩石内の間隙や孔隙は、小さいほど水を吸収する力が強く、水の供給さえあれば、どんな小さな間隙にも侵入する。このため、0度以下になると、氷となり体積が水より9%ほど大きくなる。凍結(霜上)と融解を繰り返すことで、表層部分を、砂粒や礫塊として遊離させる。
膨張・収縮 水を含むと体積を増して膨張し、乾くと収縮する造岩鉱物や粘土がある。この様な基岩は、湿潤時期と乾燥期に揺さぶりを受け、周辺に新たな割れ目が生じたり、基岩から礫塊を遊離させる。熱帯や亜熱帯での法面の後退、変形にはこの作用の役割が大きい。
侵蝕過程の細分化 水流侵蝕や土砂流侵蝕によって砂礫が運ばれるときに、砂礫同士の衝突や摩擦、砂礫が移動時に底面や側面の基岩との衝突、摩擦によって、砂礫が細分化される。この様な侵蝕、運搬、変形、対策を行う作用を営力と呼んでいる。なお、上流部では大きな礫が多いのに対し、下流部ではシルトや粘土など細土の量が多くなる。
氷河侵蝕 発達した氷河が硫化する際に、底面と側壁の基岩を擦食する事で、膨大な土砂礫を生産する。
風侵蝕 乾燥地帯では、微細なシルトや粘土が大量に生産・保管されている。これに風で吹き飛ばされることによって、砂や砂礫が相互に擦食したり、基岩を擦食する。
火山砕屑 マグマは、岩石とともに高圧の水蒸気を含んでおり、噴火に伴い、水蒸気が低圧の大気中に出るため、岩石が、粉状あるいは、砂礫状に破砕される。

また、半融様態の岩石中の水蒸気が噴き出すと、多孔質の軽石になる。
生物の作用 例えば、斜面や岩山などで、基岩の割れ目に食い込んでいるマツを見ることがある。この様な樹木の根が生長とともに割れ目を広げ、その根がさらに深く伸長する。。この根圧は非常に強く、基岩から礫を生み出す。しかし、土壌が出来ると、根系による破砕作用は目立たなくなる。
化学的風化 溶解 水は多少の差はあるが、岩石成分を溶解する。特にマグマか上昇する熱水が強い風化作用を持っている。また、全ての化学反応は、水に溶解後に行われている。溶解した成分は、化学反応によって異なった鉱物物質になる場合と元に戻る場合がある。
加水分解 水の分子が、H+とOH-イオンに分け、それぞれ鉱物イオンと結びつき、化学変化を起こす。
酸化 大気中の酸素と結びついて酸化が行われる。逆に、酸素を欠く停滞水では還元が行われる。鉄の酸化・還元・溶脱は風化土層の色を赤色、黄色、灰色・白色に変化させることで有名です。高温の気候環境で生成される赤色風化殻は、鉄の酸化が最も進んだ風下層である。アルミも同様に酸化がある。
炭酸化合 空気中の炭酸ガスを吸収した降水は炭酸ガス濃度が高く、基岩中の塩基と反応して、炭酸塩、あるいは重炭酸塩を生成して岩石を変質させる。さらに、炭酸塩は安定していないため、反応がさらに進み、ケイ酸アルミの化合物として粘土鉱物に変身する。

 この中で、土砂の発生に大きな影響を与えるのが、山崩れです。山崩れには、「地滑り」と「崩壊」に分けられ、さらに、崩壊には、「表層崩壊」と「深層崩壊」に分けられます。
 一般に、地滑りは、移動する土塊・岩塊の動きは、継続的あるいは断続的で、大きな攪乱は受けません。一方の崩壊(深層崩壊・表層崩壊)は、反対に移動するスピードは速く、土塊・岩塊は、攪乱します。

地滑りと崩壊の比較
地滑り 崩壊
①地形 緩傾斜
地滑り地形
急傾斜
非火山地域では、斜面の変更などの特徴が有る場合がある
②活動状況 継続的、断続的に動いている。
再発性
突発性
③移動速度 遅い 早い
④土塊 乱れない(原形をほぼ保つ) 乱れる(原型が崩れる)
斜面上に留まる大部分が斜面から抜け落ちる

崩壊とは、山地斜面の一部が安定を失い、土砂の塊が下方に移動する現象です。根系の発達している範囲(深さ2メートル前後)で起こる表層崩壊型山崩れと、地震や集中降雨などの影響を受け、基岩が変質・風化作用し大規模な深層崩壊型山崩れになります。

表層崩壊と深層崩壊の比較
表層崩壊(根系層崩壊) 深層崩壊
①地質 関連が少ない 地質、地質構造(層理、褶曲、断層)との関連が大きい
②兆候
(地形・地下水)
殆ど無い 有る場合がある。

非火山地域では、クリープ、多重山稜、クラック、末端小崩壊、はらみだし、地下水位変化等
③深さ 浅い 深い
④土質 表層土 基盤
⑤植生の影響 あり なし
⑥規模 小規模 大規模

森林の機能と表層崩壊=根系の範囲は、密接な関係になっています。一般に林木を含めた植物の根系は、岩石を劣化させる生物的風化作用を持っています。また、森林が生産する有機物は、基岩層の風化の促進と、土壌化を促しています。植物による土壌形成作用は、土の力学的強度を低下させる方向となる一方、根系の発達は、土の強度を増加させます。斜面表層では、この様に植物による土壌層の形成と、根の支持による土壌層の安定が図られ、バランスを保ちながら、土壌層を徐々に厚くしていきます。

5.土石流
 土石流とは、地滑り、表層崩壊、深層崩壊で発生した土砂が、自ら水を含むか、大量の水(雨)が加わるとき、沢筋や小渓流を塊となって移動する現象です。土砂と水、流木などが一体となって高速で動くため、さらに周囲の木も巻き込みながら膨れ上がります。沢を下ったところには、扇状地があり、そこには、集落や畑などを存在します。土石流は、破壊力を持ったまま、扇状地に流れ込み、家屋や田畑を埋めて、大量の岩塊や土砂、流木をまき散らします。このため、山津波や、蛇抜、山抜けとも言います。

6.土砂流亡を押さえるには
 雨水によって地表が削られ土砂が発生するのを防ぐには、古典的な話ですが、すべてをコンクリートにする方法があります。コンクリートで固められれば、土砂の流亡は発生せず水のみが流出するからです。しかし、現実には無理な話です。
 土砂流亡をなくすことは出来ませんが、抑制する事は可能です。落下する雨水のエネルギーを弱め、地表が抉られにくくすることです。裸地状態に比べ、草地や森林は、枝葉が雨水の落下エネルギーを最初に弱めます。次に、落葉落枝や下層植生があることで、直接土壌を抉ることを防いでいます。このほか、植物の根が土壌の移動を抑えています。

 

さらに、地表に堆積した落葉落枝は、腐葉土となり、多数の空間、一種のスポンジを持った状態になっています。この空間が、落下した雨水を捕らえるとともに、そこに水分を蓄えることで、急激な水の流出も防ぎ、土壌侵蝕を抑制しています。

 
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