きこりの森林・林業の教科書
③生活を守る森林って何?

はじめに 治山の教科書 森林の機能 保安林制度 治山 生活を守る樹木 生活を守る森林 流木対策
保安林の種類
補助金申請
導入の必要性
治山技術
肥料木
根系別
耐潮性
耐風性
耐火性
・防風林
・魚付き林
【保安林制度】
保安林の機能と種類
 日本では、長い歴史の中で、森林の機能を活用して、生活に利用してきた。森林法が出来る前から、地域特有のルールに従って管理してきた。森林破壊が、生活環境の破壊を招くことを体験してきたからである。一方で、私有林において所有者の判断で利用させた結果、1896年の大水害を招き、多くの人命と財産を失った。それまでも、国土保全上重要な場所にある私有林に対しては、伐木停止林制度を通じて伐採を止める努力は行っていたが、結果は大水害であった。この反省から、森林所有者に単純に伐採を禁止するのではなく、荒廃地への積極的な造林、いまある森林を維持することの方が、合理的と判断されるようになった。森林所有者が森林を持っていることでメリットが得られるようにすれば、どのようにするのが良いのかを考えた結果、保安林制度が誕生した。
 この中で、上述の森林機能を活用するため、森林法では、①~⑦までの機能を保安林として、分類した。

 土砂災害だけでなく、日常生活を守る上で、森林は機能しています。安定した水の供給や、雪崩防止、飛砂防止、高潮被害の防止、健康を維持出来る森林等です。これらを保安林と呼んでいます。農林水産大臣か都道府県の知事が、特的の公共目的を達成するための森林として指定します。このため、森林所有者が勝手に伐採出来ないや地形を勝手に変えることが出来ない等、利用に規制がかかっています。
 その一方で、保安林に指定されれば、保安林の土地の固定資産税、不動産取引税、特別土地保有税は、免除されます。また、相続税や贈与税を軽くしてくれます。
 さらに、伐採後は植栽する義務があるのですが、造林補助金を優先的にもらえます。また、日本政策金融公庫からの融資の時に、優遇されます。


次の17種類あります。

保安林の種類 内容
水源涵養保安林
流域保全上重要な地域にある森林の河川への流量調節機能を安定化し、その他の森林の機能とともに、洪水、渇水を防止する他、農業用水や生活用水などを確保したりします。
土砂流出防備保安林
下流に重要な保全対象がある地域で土砂流出の著しい地域や崩壊、流出のおそれがある区域において、林木及び地表植生その他の地被物の直接間接の作用によって、林地の表面侵蝕及び崩壊による土砂の流出を防止します。
土砂崩壊防備保安林
崩落土砂による被害を受けやすい道路、鉄道その他の公共施設等の上方において、主として林木の根系の緊縛その他の物理的作用によって林地の崩壊の発生を防止します。
飛砂防備保安林
海岸の砂地を森林で被覆することにより飛砂の発生を防止し、飛砂が海岸から内陸に進入するのを遮断防止することにより、内陸部における土地の高度利用、住民の生活環境の保護をはかります。
防風保安林
林冠をもって障壁を形成して風に抵抗してそのエネルギーを減殺し、これを防止撹乱することにより風速を緩和して風害を防止します。
水害防備保安林
河川の洪水時における氾濫にあたって、主として樹幹による水制作用及びろ過作用並びに樹根による侵蝕防止作用によって水害の防止軽減をはかります。
潮害防備保安林
津波又は高潮に際して、主として林木の樹幹によって波のエネルギーを減殺するほか、空気中の海水塩分を捕捉して被害を防止します。
干害防備保安林
洪水、渇水を防止し、又は各種用水を確保する森林の水源涵養機能により、局所的な用水源を保護します。
防雪保安林
飛砂防備や防風保安林と同様の機能によって吹雪(気象用語では「飛雪」といいます。)を防止します。
防霧保安林
森林によって空気の乱流を発生させて霧の移動を阻止したり、霧粒を捕捉したりすることで霧の害を防止します。
なだれ防止保安林
森林によって雪庇の発生や雪が滑り出すのを防いだり、雪の滑りの勢いを弱めたり、方向を変えたりする等により雪崩を防止します。
落石防止保安林
林木の根系によって岩石を緊結固定して崩壊、転落を防止したり、転落する石塊を山腹で阻止したりすることで、落石による危険を防止します。
防火保安林
耐火樹又は防火樹からなる防火樹帯により火炎に対して障壁を作り、火災の延焼を防止します。
魚つき保安林
水面に対する森林の陰影の投影、魚類等に対する養分の供給、水質汚濁の防止等の作用により魚類の棲息と繁殖を助けます。
航行目標保安林
海岸又は湖岸の付近にある森林で地理的目標に好適なものを、主として付近を航行する漁船等の目標となって航行の安全をはかります。
保健保安林
森林の持つレクリエーション等の保健、休養の場としての機能や、局所的な気象条件の緩和機能、じん埃、煤煙等のろ過機能を発揮することにより、公衆の保健、衛生に貢献します。
風致保安林
名所や旧跡等の趣のある景色が森林によって価値づけられている場合に、これを保存します。

保安林における制限と特典
 森林の荒廃を防ぐための制度である保安林制度は、森林所有者が、所有する森林を保安林に登録すると、様々な制限が課される。生活環境を維持するには、森林の維持が不可欠であるため、森林所有者に自己判断させないため、利用に制限をかけている。
 このため、保安林では、それぞれの目的に沿った森林の機能を確保するため、立木の伐採や土地の形質の変更等が規制される。保安林の管理は所有者が行うこととされ、保安林に指定された山林では「指定施業要件」に定められた行為制限(規制)が発生するため、無許可で立木伐採や各種作業を行うと、森林法に基づく処罰の対象となる。

保安林の制限内容
分野 主な制限内容
立木の伐採方法 主伐の場合、その地域で決められている標準伐期齢に達しない立木の伐採は出来ない。
国土保全上、重要な森林は禁伐
・保安林内で皆伐や択伐を行う場合は、知事の許可が必要
・保安林内で間伐を行う場合は、県へ届出が必要
伐採の限度 1箇所の皆伐面積は、最大で20ha
択伐は材積率30%を上限。但し伐採後に植栽する場合は40%
間伐率は35%を上限
植栽の義務 伐採後に、植栽について樹種、本数、期間、方法が定められている。
例「伐採後2年以内に樹種スギかヒノキと広葉樹を1haあたり3,000本以上植栽する」

 一方で、その制限の代償として、保安林に指定された山林は固定資産税や不動産所得税の免除や、相続税・贈与税の評価控除、補助金支給、立木の損失補填などのメリットが受けられる。造林に対する補助金についても、保安林に指定されていることで加算される。
 なお、保安林に指定されている森林の売買は認められているが、購入者は保安林の決まりを守らなければならい。

罰則
 保安林に指定されると「指定施業要件」に定められた行為制限に基づく「立木の伐採制限」「土地形質の変更制限」「伐採後の植栽義務」が発生し、違反した場合は森林法に基づく処罰の対象となる。

(1)立木の伐採:都道府県知事の許可が必要です。
【許可要件】伐採の方法が、指定施業要件(注)に適合するものであり、かつ、指定施業要件に定める伐採の限度を超えないこと(間伐及び人工林の択伐の場合は、知事への届出が必要です。)

(2)土地の形質の変更:都道府県知事の許可が必要です。
【許可要件】保安林の指定目的の達成に支障を及ぼさないこと

(3)伐採跡地へは指定施業要件に従って植栽をしなければなりません。
(注)指定施業要件
保安林の指定目的を達成するため、個々の保安林の立地条件等に応じて、立木の伐採方法及び限度、並びに伐採後に必要となる植栽の方法、期間及び樹種が定められています。
参考:保安林の指定・解除の権限者

 なお、残念なことに、木材生産とは別に、保安林内での不法な土砂採集や土地利用が続くため、2017年より、一部罰則が強化された。

罰則内容
違反内容 罰則内容
2017年まで 2017年以降
立木伐採違反 150万円以下 150万円以下
土地の形質の変更等違反 150万円以下 3年以下の懲役
または、300万円以下の罰金
土地の形質の変更等を除く作業許可違反 150万円以下 150万円以下
監督処分の命令のうち土地の形質の変更等の中止・復旧命令に違反 150万円以下 3年以下の懲役
または、300万円以下の罰金
監督処分の命令のうち土地の形質の変更等を除く中止・復旧命令に違反 150万円以下 150万円以下


保安林の指定と解除
 保安林の指定及び解除の権限は、民有林のうち国土保全の根幹となる重要流域にある流域保全のための保安林(水源かん養保安林、土砂流出防備保安林及び土砂崩壊防備保安林)及び国有林の保安林にあっては農林水産大臣、その他の民有保安林にあっては都道府県知事となっている。

指定・解除の権限者
所有区分 保安林の種類 流域区分(注) 指定・解除の権限者
国有林 全ての保安林 全流域 農林水産大臣
民有林 水源かん養保安林
土砂流出防備保安林
土砂崩壊防備保安林
重要流域外
重要流域外 都道府県知事
(法定受託事務)
その他の保安林 全流域 都道府県知事
(自治事務)

国有林・民有林別延べ面積(2018年3月31日現在)
単位:ha
保安林種別 国有林 民有林 合計 (%)
水源かん養保安林 5,700 3,504 9,204 71.1
土砂流出防備保安林 1,079 1,517 2,596 20
土砂崩壊防備保安林 20 40 60 0.5
飛砂防備保安林 4 12 16 0.1
防風保安林 23 33 56 0.4
水害防備保安林 0 1 1 0
潮害防備保安林 5 9 14 0.1
干害防備保安林 50 76 126 1
防雪保安林 0 0 0 0
防霧保安林 9 53 62 0.5
なだれ防止保安林 5 14 19 0.1
落石防止保安林 0 2 2 0
防火保安林 0 0 0 0
魚つき保安林 8 52 60 0.5
航行目標保安林 1 0 1 0
保健保安林 359 345 704 5.4
風致保安林 13 15 28 0.2
合計(延べ面積) 7,276 5,673 12,949 100
保安林実面積 6,918 5,280 12,197 100
全保安林面積に対する比率 56.7 43.3 100
全国森林面積に対する比率 27.6 21.1 48.7
所有別面積に対する比率 90.3 30.4  
国土面積に対する比率 18.3 14 32.3  
出典:森林・林業統計要覧




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