きこりの森林・林業の教科書
②日本の森林は誰のもの?

はじめに 森林管理 国有林の話 民有林の話 土地問題 林政の歩み 法制度 税金
森林・林業に関連する法律 森林法 林業基本法 森林・林業基本法 分収方式による造林と育林 メモ
1.制定の背景
 旧林業基本法は、昭和39年(1964年)、その当時における社会経済の動向や見通しを踏まえて、日本林業が向かうべき道筋を明らかにスルモノとして制定された。しかし、基本法制定後、37年の年月の間に、社会経済状況が、経済成長の鈍化、成熟化、国際化と大きな変化があり、旧林業基本法が設定していた将来像と乖離した。
 特に、国民の森林に対する要請は多様化していった。このため、社会の条生に会わない側面が見られ始めた。

①国民の森林に対する要請の多様化
 木材生産機能から、水源涵養、国土や自然環境の保全、地球温暖化の防止、レクリエーションや教育の場としての利用等に多面にわたる機能の発揮へと多様化してきた。この要請に応えられる政策や将来にわたって適正な森林整備と保全を行う事が求められたこと。

②林業を取り巻く情勢の変化
 木材価格の低迷等により、木材の生産性は悪化し、林業収入も低下するなど林業を巡る市場性が著しく悪化したこと。
 木材の代替品としてのプラスチックやアルミの普及(工業化、大量生産)、円高による国際木材市場との競合

➂手入れ不十分な森林の増加
 森林所有者の林業への意欲や関心が減衰し、手入れ不十分な森林が増加していることから、国民の要請に応えた森林の育成や、林業経営を行う事が困難となったこと。
 
④国際的な動向
 地球環境問題への取り組みが世界的に需要となっている中で、森林を一つの生態系として捉えられ、森林に対する多様な要請に永続的に、持続的に対応すべきと言う「持続可能な森林経営」の推進に向けて、国際社会が一体となって取り組むことが求められたこと。

2.概要
大項目 中項目 備考
第1
基本理念
①森林の有する多面的機能の発揮 (1) 森林の有する国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、公衆の保健、地球温暖化の防止、林産物の供給等の様々な機能(これを「森林の有する多面的機能」といいます。)が持続的に発揮されるよう、将来にわたって、森林を適正に整備及び保全

(2) 森林の適正な整備・保全には、山村における継続的な林業生産活動が重要であるため、定住の促進等による山村の振興が図られるよう配慮
②林業の持続的かつ健全な発展 (1) 林業が森林の多面的機能の発揮に重要な役割を果たしているため、林業の担い手の確保、林業の生産性の向上を通じ、望ましい林業構造を確立することにより、林業を持続的かつ健全に発展

(2) 林産物の適切な供給及び利用を確保するため、国民の需要に即した林産物の供給、国民の理解に基づく林産物の利用の促進
第2
森林・林業基本計画
①政府は、森林・林業施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、基本計画を策定
②計画記載事項 ・施策の基本的な方針
・森林の有する多面的機能の発揮並びに林産物の供給及び利用に関する目標
・政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策 等
➂情勢の変化、施策の効果に関する評価を踏まえ、おおむね5年ごとに変更
第3
森林の有する多面的機能の発揮に関する施策
①森林の整備の推進 (1) 地域の特性に応じた造林、保育及び伐採の計画的な推進、林道の整備等

(2) 計画的・一体的な森林施業の実施に不可欠な森林の現況の調査その他の地域における活動を確保するための支援
②森林の保全の確保 土地の形質の変更等の規制、森林土木事業の実施、森林病害虫の駆除及びそのまん延の防止等
➂技術の開発及び普及 研究開発目標の明確化、国と民間等の連携の強化、技術の普及事業等の推進
④山村地域における定住の促進 就業機会の増大、生活環境の整備その他山村地域における定住の促進
⑤国民等の自発的な活動の促進 森林の整備・保全に関する自発的な活動を促進するための情報の提供等
⑥都市と山村の交流等 都市と山村との交流の促進、公衆の保健、教育のための森林の利用の促進等
⑦国際的な協調及び貢献 森林の整備及び保全のための国際的な連携、開発途上地域に対する技術協力及び資金協力等の国際協力の推進
第4
林業の持続的かつ健全な発展に関する施策
①望ましい林業構造の確立 効率的かつ安定的な林業経営を育成し、これらの経営が林業生産の相当部分を担う林業構造を確立
②人材の育成及び確保 効率的かつ安定的な林業経営を担うべき人材の育成及び確保
➂林業労働に関する施策 就業の促進、雇用の安定、労働条件の改善、社会保障の拡充等の推進
④林業生産組織の活動の促進 森林組合その他の森林施業・経営受託組織等の活動の促進
⑤林業災害による損失の補てん等
第5
林産物の供給及び利用の確保に関する施策
①木材産業等の健全な発展 木材産業等の事業基盤の強化、林業との連携の推進、流通及び合理化
②林産物の利用の促進 林産物の利用の意義に関する知識の普及及び情報の提供、林産物の新たな需要の開拓、建物及び工作物における木材の利用の促進
➂林産物の輸入に関する措置 輸入国側の森林の多面的機能に配慮した適正な輸入を確保するための国際的な連携。緊急に必要があるときに。関税率の調整、輸入の制限等を実施
第6
その他
国の責務、国有林野の管理及び経営の事業、地方公共団体の責務、林業従事者等の努力の支援、森林所有者等の責務
森林及び林業の動向に関する年次報告等
行政機関及び団体の組織の整備

3.基本的な施策と内容

基本的な施策 施策内容
森林整備の指針
森林保全の確保
・森林の有する多面的機能発揮の目標提示
・複層林化、広葉樹の導入、優良木材生産林など多様な森林を整備
・治山事業による森林整備の実施
・森林現況調査活動のための新たな支援
・山地災害の防止、森林病害虫の防除と推進
技術開発及び普及 ・研究開発の目標の明確化
・地域の特性に応じた技術の普及
山村地域にける定住促進
都市と山村との交流
・山村の活性化に向けて就業機会の増大
・用排水施設等の生活環境の整備
・木質バイオマスの未利用資源活用促進
・森林を利用した体験活動や交流環境の整備
・教育福祉との連携による森林環境教育の推進
国民の自発的活動の促進 ・森林ボランティアへのフィールド、情報の提供
国際的な協調及び貢献 ・森林の多面的機能の持続的な発揮に向けた環境保全に関する国際的な基準の適用
・開発途上国への森林整備保全への国際協力
望ましい林業構造の確立
林業生産組織活動の促進
・林業の担い手の明確化
・林業助成制度、融資制度、税制の重点化と集約化
・森林施業計画の作成主体に受託者の追加や受託組織活動の促進
・森林組合制度の見直し
人材の育成・確保 ・新規就業者の育成と確保
・労働安全の確保
林業災害による損失の補填 ・森林保険の普及(当初は、森林国営保険の普及)
木材産業の健全な発展
林産物の利用促進
・林産物の供給、利用の目標提示
・木材産業体制整備の基本方針の策定
・木材産業の構造改革
・人工乾燥材供給体制の整備
・地域材利用の推進方法策定
・木質バイオマス利用等の新たな木材需要の開発
林産物輸入に関する措置 ・適正な輸入を確保する国際的連携
・セーフガードの位置付け



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