【挿し木苗の特性とその意義】
挿し木とは、樹木の枝、葉、根などの樹体の一部を母樹から切り離して、土壌に挿して、不定根を発生させ、独立した個体を付く方法です。無性繁殖法の一種。
長所 |
短所 |
・母樹の遺伝質をそのまま受け継ぐ。
・種子の豊凶に関係なく苗木が確保できる。
・結実不良樹種や品種でも苗木が確保できる。
・元気な枝を用いるため、育苗中の病害に掛かりにくい。
・均一な木材生産が可能となる。 |
・樹種、品種、樹齢によって発根性にバラツキがある。
・実生苗と比べ大量繁殖が困難。
・樹種や挿し穂を取る位置によって、枝の性質が残る物がある。
・単一品種の大面積造林地では、気象害等で激害をうける危険性が高い。
|
実生苗と挿し木苗の大きな違いは、挿し木苗は根が不定根であるため、実生苗と比べ、山出し後の数年間は、成長が劣ると言われている。その原因は明確になっていないが、根系の発達が劣っているためとか、有機物の乏しい土壌に挿すため、実生苗に比べ十分な栄養分を貯めていないと言われている。
このため、1年苗を使うのではなく、2年目に床替えして、肥料を十分に与え、根系を発達させて植栽に使う方が良いと言われている。
|
【よい挿し木苗とは】
・よい品種・系統のもの
・生育が健全で、組織が充実しているもの
・下枝がよく張ってガッチリしたもので、苗長に対して根元直径が太いもの
・根の発達がよく、地上部と地下部の釣合いがよくとれたもの
・病虫害にかかっていないもの
・根数が6本以上
|
【挿し木苗の作り方】
(1)挿し木床の作り方
①土壌
有機物を含まず、保水、透水性が良く、通気性の優れたものが最適。
ミスト等で灌水する装置がある場合は、透水性の高い山砂、真砂土、川砂が良い。
露地の場合は、保水性が高く、雑菌の好きな火山灰地(音地土)が良い。
逆に、使ってはいけない土壌は、粘土の含有量が多く、透水性が不良な土壌、礫の多い土壌
②畑の耕耘
20cm以上の深耕を行い、礫がある場合は取り除く。
根切り虫駆除のために、薬剤を鋤込み、1~2週間後にガス抜きのために耕耘を行う。
連作する場合は、病虫害防除のために、土壌消毒を挿し付ける2ヵ月くらい前に行い、ガス抜きのための耕耘をする必要がある。
③施肥
必要なし
化学肥料は厳禁
④床作り
-露地挿し-
地均しをした後、土壌の性質によって、上げ床、平床にする。
平床は、梅雨時期に水が停滞して過湿になりやすいので避ける。このため、上げ床は、畝が崩れるの防ぐため、板等で枠を作る。畝幅は、1m、溝幅30~40cm。挿し木床の高さは、15~20cm
-箱挿し-
深さ15cmくらいの箱で作る場合は、排水のためにそこに穴を開ける。
-コンクリートブロック-
床の高さは、15から20cm、幅は1m、幅溝40~50cm。床の下部には、排水をよくするため、1cm程度の礫を3,4cmの厚さで敷き詰める。用土は、有機物や細菌が少なく、保水性、通気性の良い鹿沼土や真砂土を選ぶ。
(2)挿し木の時期
スギの春挿しは、新芽が米粒の大きさになった頃と言われている。もしくは、ヤマザクラが咲き始めた頃。
ヒノキの春挿しも、ヤマザクラが咲き始めた頃。
一般に、地中10cmの場所の地温が、13℃になる頃で、平均気温が10~11℃前後の時期。
秋挿しの場合は、9月下旬頃、霜柱や寒さの酷い場所を避ける。
梅雨時期も可能。
(3)挿し穂
-採穂する母樹-
品種・系統が明らかな母樹、優良な形質を持っている母樹から採穂する。採穂しやすい採穂台木から採穂することが望ましいが、造林木の若木や、山出し苗の枝も利用出来る。
留意点は、以下の通り
・生産目標と一致した成長や形質を持っていること。
・造林地の選抜地の気候、土壌条件など自然環境に著しい相違がないこと。
・病虫害に罹っていないこと。
ー挿し穂の採取ー
挿し穂は、切り口の年齢によって、1年枝、2年枝、3年枝という。
スギの場合は、3年枝まで使うが、1年枝は発根性は良いが、組織が柔らかいため、腐るリスクがある。
普通枝と萌芽枝があり、普通枝より、萌芽枝の方が発根性が良い。萌芽枝は、不定枝ともいい、組織の充実や挿し穂に含まれる養分が普通枝よりあるためと言われている。このため、長期にわたり大量に挿し穂苗を作る場合は、萌芽枝の生産を目的とした挿し穂台を仕立てておくと良い。

2年枝、ないし3年枝を使う場合、上昇伸長の枝は、徒長型枝であり、下降伸長の枝は、衰弱枝であるため、平均的な伸び方をした平衡型の挿し穂を選ぶ。徒長型は、水分の消費が多く、一方で養分の蓄えは少ないため、発根しにくい。
|