きこりの森林・林業の教科書
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苗木から植栽:苗木作り

育種の考え 苗木調達の仕組み 林業品種 種子の確保 苗木作り メモ
苗木生産の方法と苗木の種類 設計と管理 育苗作業 裸根苗 挿し木苗 ポット苗 コンテナ苗 苗木の値段
植林用苗畑の概念
 植林用苗畑は、植林用樹木の種を調達し、播種し、芽が出るまで苗床で育成した後、ポットに移植して、床替え床へ移し、十分な大きさとなるまで育成する圃場のこと。
植林のための苗木生産は、必要なインフラ及び機材を備えた適切な場所で行う必要があります。
 植林用苗畑の造成に関しては、立地、苗畑の規模、立地場所の地形及び気候的条件、地域内の資材調達、労働力の利用可能性等を検討しなければならない。
 なお、苗畑の造成のためのインフラ及び技術は、植林事業の目的及び規模によってかなり異なるため、樹種及び苗木の計画生産量等の情報を十分に把握する必要がある。

良質な苗木は、圃場における生存率及び生育率が高い。生育が良好であれば苗木は雑草との養分や水分摂取の競争に勝ち、圃場での森林整備に係る初期段階の経費を節減できる。

・苗木の量ではなく、品質を重視すること。
・地域内の最高水準の樹木の種子を使用すること。
・幼木の生育度を定期的に確認し、低品質の苗木を排除すること。
・ポットに移植する時に、根が真直ぐに伸びた状態にすること。
・有機物を含む良質の培養土を使用すること。
・適切な大きさのポットを使用すること。
・樹木の生育に合わせて水及び日光の量を調節すること。
・灌漑システムを導入し、十分な灌漑水量を維持すること。
・除草を適切に行うこと。
・化学肥料は生育に適したものを使用すること。

メリット デメリット
樹木の取扱い及び栽培の経験が得られる
長期的な経済効果
現地の条件への適応
自給自足
雇用の創出
投資費用と時間がかかる
林産物の市場の変動
種間競争

植林用苗畑の造成が決定した場合は、生産方式を明確にすること

造成条件
苗畑の造成の第一歩は、設置場所の選定です。

①植林地に近いこと
苗畑と苗木を植栽する植林地までの距離がなるべく短いこと。可能であれば、苗畑は植林地と同じ場所に設置すべきである。
苗畑と植林地間の距離は重要。距離が長くなるほど、輸送費用が増加する。また、道路事情によっては苗が傷む。

②水の確保
川ないしは灌漑水を含め、水が確実確保できる事。樹種によっては、1000本あたり、350~500㍑/週が必要と言われる。
水源として、池、河川、井戸、湧水が想定出来るが、苗畑との距離、土壌条件から、灌漑システムの設置を検討すること。必ず、降水量の少ない時期の用水量を把握しておくこと。
水質として、苗畑に有害な物質(マグネシウム、カルシウム、塩化ナトリウム、カリウム等)が一定限度以上含まれないことを確認する必要がある。

③土づくりが出来る場所
土づくりが重要なため、腐植土、砂、牛糞及びココナッツ殻等の資材の運搬が容易な場所であること。

④経済性
新規造成は費用がかかるので、植林事業範囲内に既存の苗畑がないか調査し、もし存在すればその利用を検討すること。

⑤労働力の確保
年間を通じて、播種、手入れ、ポット詰め、移植等の様々な作業に適切な労働力が必要となるため、周辺で採用すること。

⑥輸送の容易性
作業員の交通、資材及び苗木の運搬を円滑にするために、苗畑は幹線道路付近に設置すること。

⑦地形
傾斜が緩やかで水はけの良い、可能な限り平坦な土地を選定する。
傾斜が急な場合は段差をつける作業が必要になるため、造成コストが増加する。また、地表面が不均一な場合、地均しや切盛作業が必要になり、費用が増加する。
冬期の霜害に遭い易い低地の利用は避ける。
苗畑は平坦で通気性の良い土地に造成するのが理想的

⑧日照と防風
可能な限り日照時間の長い土地を選択し、東側や南側の日当たりが悪い場所や日陰が多い場所は避けること。
防風性が高く、適度な日陰がある土地を優先的に選ぶこと。
適切に造成された防風帯は、土壌や苗木を風による乾燥及び損傷から保護する。
防風帯は主風向側に設置すべきであり、風速を減速する程度の透過性が必要。

※初めての場所では、リスクを軽減するため、最初は小規模の苗畑造成から始めることが賢明

苗畑の設計
ポット苗を生産する植林用苗畑は、適切な植栽区画、遮光設備、倉庫、通路、道路等を用意すること。

①形状
規則的な正方形又は長方形の形状が望ましい。
長方形の場合は、縦の長さを出来るだけ短くし、横の長さの2倍以下とするのが望ましい。
しかし、土地の形状に合わせて施設を設置するため、常に理想的な形状に造成できるとは限らない。

苗畑の面積配分は、栽培区画(総面積の70%を専有)と非栽培区画(通路、倉庫など)に分けられる。

②材料
永久的苗畑の場合は耐久性のある材料が必要になるため、一時的な苗畑より費用が高くなる。

小規模農家が設置する苗畑では、遮光のためのヤシの葉やカヤ、仕切りにヤシや竹等の自前の材料を使う


規模
検討事項は、以下の通り
・年間植林面積
・植栽方式(単層林、混交林、アグロフォレストリー)
・植林する樹種及び1ha当たりの植林本数
・植林方法(ポット苗、地植え、コンテナ苗)
・苗畑の植栽間隔
・予想される損耗率

総面積の40%程度を柵、通路、灌漑システム(給水タンク等)、ポット詰め作業スペース、倉庫、培養土の材料の保管場所等に使用する。
概算では、苗木1,000本当たりの必要面積は20m2程度である。


気候要因と土地要因
-気候要因-
・極度の強風を受けないこと
・日当たりのよいこと
・霜の発生頻度が低いこと
・実際に植林する地域と類似していること
・樹種にあった気候要因(気温、降雨量、風)
・降水量(雨、雹、霜)が多い地域では、排水改良すること
・極端な温度変化を避けること。

-土地要因-
・硬化していない土壌
・根張りが容易な褐色砂質土又は暗褐色砂質土
・水はけが良く、保水力が優れていること
・土壌が深く、石礫のないこと
・緩やかな勾配のある平坦な地形であること
・洪水の危険性がないこと
・褐色砂質土は大部分が砂質土で水はけが良いため、植林用苗畑に適している。
・有効土層厚。苗畑の土壌は、排水条件を保つため有効深度60cm以上が望ましい。
・苗畑では、ポット詰めに不可欠な有機土壌及び砂が得られることが望ましい。
・表面が均一な土地であること


インフラ
①防護柵
苗畑の外部で放牧される家畜やそれを扱う人間による損傷を避けるため、周囲に防護柵を設置すること。
有刺鉄線、金網等による柵の他、生け垣としての植物を植栽する方法も可能

簡易柵:普通の鉄線か有刺鉄線、又は木杭で作る。大型家畜の侵入を防ぐ役割を果たす。
金網による防護柵:基礎を石で固め、鉄筋コンクリート柱と金網を使って作る。コストがかかるため、大規模で何年も使用する苗畑に設置する。
簡易構造の防護柵:1.5mから1.8mの高さの塀を作ること。小動物から保護することが可能。一方で耐久年数が1、2年と短い。

②倉庫
倉庫は、防犯を兼ねて、レンガ又はコンクリート造りとし、施設が小さい場合は、入り口付近の空間を作業スペースとして使用すること。

③作業スペース
ポット用培養土の準備及びポット詰めという日常業務の遂行に使用され、雨天時でも作業可能なよう屋根を設置する。
床はコンクリート。

④水源と灌漑システム
水源:必要な水の量は降水量、土壌、樹種及び育苗数によって異なる。干ばつ等による水不足の悪影響を回避するため、溜め池の水源には十分な水量が必要

灌水:苗畑での灌漑方法は、葉の水分量(膨張度)を確認して、散水すること。
給水は、気温の上昇がない早朝又は日没時が適切
樹木が強い日差しを受ける時間帯に給水すると、蒸発と脱水症により給水した量だけ水分を喪失し、苗木に悪影響を与える。また、葉に残った水滴も日光の影響を高め、葉を燃やすレンズの役割となる。

タイプ 概要
スプリンクラー灌漑 散水灌漑はローターと呼ばれる回転式固定チップ又はノズル噴射スプリンクラーで灌水する。
スプリンクラーは回転式で、角度の調整や連続噴射が可能であり、チップを交換して水量を調整する。一般的には360度回転式大型チップと、噴射範囲が限られる180度回転式小型チップを併用する
マイクロ灌漑 配水管、チューブ、小型噴霧器などを使用し、少量の水を土壌表面に効率的散布するシステムで、幼木に満遍なく水を供給する
ホース散水 ホースによる手動の灌漑方法で、小規模苗畑で行われる。散水を効率化するため、給水口を適切に配置する必要がある

⑤日除け
苗木は、植林地の気象条件に対する十分な耐性を備えるまで、適度に遮光し、保護する必要がある。遮光により、土壌水分の損失(蒸散)と葉の水分損失(脱水症)を軽減し、樹木及び腐葉土の温度を低下させ、強雨から保護する。

遮光の調整:萌芽時は大半の樹木が40-50%程度の遮光を必要とするが、樹種によって異なる。生育が進むにつれて、遮光を軽減し、圃場に移植する数日前には日光に直接さらす必要がある。

苗畑では、遮光量と散水量を調整する必要がある。遮光量が多い場合は、散水量を落とし、直射日光を受ける場合は十分に散水する。苗畑では、通常、育成期間を通じて遮光しているが、これは望ましくない。過度に遮光された苗木は多くの場合以下のような特徴が見られる。

・樹高が不十分で生育が遅いか、樹高は十分だが細く、樹木としては幹が軟弱である。
・葉の色が薄く、黄化することがある。
・耐病害虫性が低い。
・植林地への移植時、日光による葉焼けが生じやすい。

寒冷紗の高さは、作業を円滑に行うため2m程度とし、側面から直射日光が当たらないよう幅に余裕をもたせる。寒冷紗は樹木の生育に応じて、次第に除去し、1日目は2時間、翌日は3時間というように次第に直射日光を受ける時間を増やし、最終日には完全に寒冷紗を取外す方式が望ましい。寒冷紗を取り外す時期は、葉焼けを防ぐため、雨天日や曇天日、又は早朝や日没時とする。
苗木の萌芽期間には寒冷紗を二重にし、生育期に入った時点で1つ減らす方法もある。

推奨される作業 不適切な作業
庇陰樹を使用している場合、定期的に枝打ちする。
寒冷紗は破れやすいので、修理又は交換を怠らない。
日照量に応じた灌水を行う。
ポット苗は日光の移動を見ながら配置する。
苗木の生育に従って、徐々に日除けを外す。
日除けがない状態での苗木の反応を観察し、適切な手入れを行う。
全栽培期間での遮光。
過度な遮光は生育不良、病害が発生。
太陽の移動方向を考慮しない苗床の配置。日よけを除去する時期が早すぎたことによる苗木の葉焼けの発生。

⑥苗床枠
苗床枠は播種から萌芽まで苗木を育成する空間で、横幅は1m、長さは10m以下とするのが望ましい。
一般的には、0.5m2当り1,000粒を播種する。(ユーカリ等小さな種)

各苗床枠の間は、作業のため約30cmから50cmの通路を確保する。
苗床枠は以下の材料のいずれかを使用する。
木製の苗床枠の場合、板材で苗床を囲うもので、安価で短時間に作ることができる。板材の厚さは3~5cmとする。
レンガの苗床枠:コストは高いが、耐久性に優れ、苗床に最適である

苗床用の土は肥沃度が高く、ほぐれやすいものがよい。
良質の苗床にするためにふるい分けする。苗床に適する土又は培養土は以下のとおりである。
・適度な排水性と通気性のある多孔質の土壌。
・土塊、根、砂利等の粒径の大きい成分を含まないこと。
多雨地域では、苗床枠は地盤より高くするが、乾燥地域では土壌面と同じ高さにするのが望ましい。







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