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肥料木 根系別 耐潮性 耐風性 耐火性 |
・防風林 ・魚付き林 ・水害防備林 |
| 【生活を守る森林:防風林】 |
| 1.防風林について 防風林は、生活に密接した森林の一つである。何故なら、風による農地の表土流出の抑制、そして果樹園経営では、風から収穫前の果実を守る等、場所によっては、住居地周辺に防風林を設置する事で、生活環境が改善される等の機能を有しているためである。地域住民の行政による森づくりへの支持、森の維持管理の必要性を理解してもらうためには、防風林の機能は分かりやすく、今後、砂漠周辺や海岸でも今まで以上に防風林の機能が重要視されるであろう。 日本だけでなく、ヨーロッパ、アメリカでも森林を開拓し、農地を広げた結果、風害によって農地の収量が減り、また表土を失うことで土地の劣化を経験したり、砂嵐の被害に悩まされたりしてきた。これらの苦い経験から、持続的な生活環境の維持のために、防風林を作るようになり、特にデンマークの防風林造成はこの分野における成功事例と言える。 ![]() 写真1 アメリカ由来の十勝平野の防風林と畑 |
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北海道は、開発に伴う被害軽減のために、アメリカの農務局長を招いて、技術指導を受けた歴史がある。日本の他の地域は、夏の台風の被害や、冬の日本海からの強風等の被害を経験していたため、その地域独自の防風林が形成され、維持されてきた。台風の被害がほとんど無い北海道では、防風林という概念が定着しないまま、開発が行われてきた。結果、広大な農地が誕生したが、数年後には、強風による表土流出、風倒等による強風被害で、収量の低下など、農業の維持が困難な状況にまで追いやられる。北海道の農業開発は、大規模なアメリカ式の農業技術の導入であったため、アメリカの知恵を借りることになった。このため、北海道の防風林は、写真1のように農地を囲むように格子状となっており、アメリカ型の防風林となっている。一方、北海道以外の他の地域では、下の写真2のように帯状の防風林となっている。![]() 写真2 伝統的な海岸防風林と収穫前の水田(秋田県潟上市) |
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| 2.防風林の機能 風が防風林に直角に当たった場合、通風性のある防風林の場合は、風の一部は防風林の中に侵入する一方、他の部分は防風林の上に変流する。風の流れが分岐することにより、滅速された風の帯が出来る。これは、防風林の構造と高さによって規定される。 ![]() 図1 通風性のある防風林の模式図 一方、通風性のない防風林は、直接の後背地に対しては、大きな防風効果をもたらすが、渦流作用によって、有効帯が比較的短いことになる。 ![]() 図2 通風性のない防風林の模式図 このため、風速の適切な滅殺効果を得るためには、①通風性のあること、②適当な幅と形を持つこと、③大きな高さを持つことが理想となっている。適切な防風効果を得るためには、地表部から先端部まで、ほぼ均質な密度を持つ植生によって防風林が構成されていることが重要である。しかし、基本的な事を忘れて、防風効果の弱い防風林が作られる事があり、せっかくの防風林の機能が弱まってしまうことがある。一つの事例として、防風林の効果を弱めてしまう道作りがあります。道を作ることで、防風林帯に空隙が生じる。小さな空隙があれば、空隙を通過した風が発散するため、防風林の大部分の効果が証言される。このため、防風林に道路、歩道、潅漑路等を交叉する場合は、直線ではなく、斜め状の開口部を作る必要がある。残念ながら、日本でも、何も考えずに防風林を横切る道を作り、効果を弱めている場所もあります。
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半乾燥地あるいは灌漑不要の亜湿潤帯の地域では、一般的に5列植栽の防風林が造成・育成するのに有効であるとされている。これは、経済的、かつ広い面積を必要としないためである。一方、灌漑の必要な極端な乾燥地では、1列、多くても3列植えが採用される傾向がある。ただし、1列植えの防風林は、欠損部が拡大する恐れがあるというリスクがある。![]() 図4 5列植え 典型的な5列植えの形。中央列、側方列、林縁列となる。林縁列は、灌木が多い傾向。一般的に、防風林は、後背地に対して、防風林の高さの20倍までの地域を保護すると言われている。 基本的に、防風林は、一定方向の風に対して造成されるため、風向きと直角方向の防風林帯を平行して造成する。しかし、色々な方向から風が来る場合は、市松模様(チェッカー盤柄)で作る必要がある。
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| 3.防風林の効果 前項において、防風林は後背地に対して、防風林の高さの20倍までの地域が保護されると説明しているが、北海道では、樹高の35倍まで効果がある防風林があり、そこでは、樹高15メートルの木に対し、525メートルの幅を計算上保護している。防風林は、地形や建物、それ以外の森林の存在などの風上の状態によって適切な幅を維持する必要があり、実際には300~450メートル程度の幅で作られることが多い。地域によって風の種類も異なり、植栽されている樹種も異なるため、時間がかかっても、その地域に適した防風林を作っていかなければならない。 防風林の効果を証明するデータとして、防風林の有無で比較した作物の収量データがある。防風林があると無いとの収量の差が歴然であることが分かる。 表1 防風林の有無による収穫量の違い
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| 4.防風林の課題と解決策 防風林維持の課題として、自然由来の風倒被害、病虫害、獣害の他、人間関係由来の対立や、後継者の理解・認識不足がある。特に、後継者の理解・認識不足は大きな課題である。防風林は、農作物の減収など困った事態に陥ったために作られるが、特に、防風林を受け継いだ、次の世代、次の次の世代は、防風林が無かった頃の苦労を知らず、防風林は存在している事が当たり前と考える傾向がある。このため、防風林の重要性を理解せずに農地拡大のために防風林を伐ろうとしてしまう。しかし、一度伐ってしまえば、一時的に面積が増え、収量は増えるが、風害を受けて収量が減ることになる。このような問題を発生させないために「耕地防風林管理条例」という条例がある。このうちの一つが、北海道の南幌町の条例で、最小行政単位でありながら、独自の条例として「耕地防風林管理条例」を定めている。1960年に町議会で決められ、以後、時代ごとに改正を繰り返し今にいたるまで、公共性維持のために町民はこれを守っている。 |
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この他にも、北海道の芽室町では1957年に、条例を作り、何度も改訂しています。
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| このように、森林面積が増え、生活環境が安定してくると、森林を造成した人々は去り、さらに、世代が交代し、当時を知らない人たちが地域の主役になる。この時、森林を減らし開発しようとするのが、古今東西問わず、人の行動パターンです。このため、先人の偉業を維持するために、この様な条例を市町村レベルで作り、地域の防風林について取り決めを行っている。この背景には、所得向上のために、農地拡大による防風林を破壊する事例があったためで、防風林を撤去したものの、再び収量が落ち、再度作り直す事もある。防風林が出来上がるのに、北海道では20年近くかかるが、伐採は数分で終わる。 また、健全性を維持するため防風林も一定の間隔で更新される。伐採木の収益をどのように分配するかの取り決めがなければ、騒動の原因になるため、そのためにも、この様な条例は有効である。 防風林は、今の住民の利益だけでなく、未来の住民のためにもなるものである。今ある森林や、先人が作った森林の価値を守るためにも、日本では、土地利用を簡単に変更させないための知恵として、条例がある。 |
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