きこりの森林・林業の教科書



⑫森林を守ろう

概要 病虫害と対策 獣害 気象害 森林火災 竹林対策
主要な病虫害と対策
ナラ枯れ
マツクイムシ
ウサギ
ネズミ
鹿


マニュアル類
冠雪害 火災予防
消火活動
森林保険制度
森林火災に関する資料集
道具
タケの特徴
タケノコ栽培
竹林の整備
竹の活用
マニュアル類
林野火災とは、

一般的に、森林火災、山火事、山林火災とも呼ぶ。山や森林などが焼けることをいうが、かつて、山は草地に覆われていた時代があり、林と野で、林野という。林野庁も山を管理する組織であるが、広大な草地をかつては管理していたため、名残として林野という。英語は、forest fire、wildfireです。


1 林野火災の現状

 総務省消防庁の火災年報では、林野火災は、全火災の3~4%となっている。

1.1 林野火災の発生の推移
 電気・ガスの普及により、薪炭林(天然林)を用材林(人工林)に転換するなど、1955年から始まった拡大造林時期に林野火災は急増した。多くは、林業労働者による火の不始末で、大規模火災は少なかった。新規造林面積が減少し、林業労働者も減少すると、件数も減少した。特に、1970年代から都市部への人口流出が本格化すると、山村人口が減少し、林野火災も減少した。
 また、農地残滓を燃やす野焼きは、2000年頃から届け出制になったこともあり、林野火災は、減少傾向になっている。なお、1994年、1995年は記録的な猛暑となり、通常、夏の林野火災は少ないが、この両年は、急増した。



1.2 都道府県別の発生状況

 2004年から2018年までの林野火災の累計件数である。火災件数の多い地域は、乾燥した季節風が吹く地域、乾燥の期間が長い地域となっている。林野火災の取り組みは、都道府県で温度差があり、件数の多い岡山県は、毎年林野火災の状況と対策について報告書を取りまとめている一方、ほとんどの都道府県は、林野火災のみの報告書は作成していない。

林野火災の多い岡山県南部地域は、北側に1000~1300m(最高1729m)の山地が、南側に1800m(最高1982m)の山地に囲まれている。このため、冬は日本海側で雪を降らした後の乾燥した風が、夏は、台風など大雨を降らさせた後の乾燥した風が入ってくるため、比較的乾燥した地域となっている。また、森林荒廃の激しかった地域であったため、緑化後も陽樹が大部分を占め、可燃性の高い赤松が多く存在している。このため、東側の兵庫県、西側の広島県とも林野火災が多い。


1.3 月別の発生状況

 一般的に、乾燥の3月4月に集中するが、日本列島は南北に位置するため、1ヵ月かけて北上する。このため、山火事防止月間は、地域毎に異なっているが3~4月に設定されている。8月の林野火災はレジャー関係による火の不始末、11月は農地の残滓を燃やす火入れ不始末が主要な原因である。なお、猛暑の年は、8月は高温と異常乾燥となるため、林野火災が急増する。

林野火災の出火原因の大部分は、人為的な火の不始末です。たばこは、喫煙率の低下に伴い、減少傾向が見られる。男性の喫煙率は、1965年が82.3%に対し、2004年で46.9%、2018年には27.8%となっている。
2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年
たき火 672 599 392 561 535 558 440 701 332 567 443 293 309 402 428
煙草 343 274 169 232 164 196 125 147 71 138 96 70 48 58 62
火入れ 292 246 229 282 283 316 151 267 171 340 249 174 170 218 258
放火の疑い 249 180 172 193 144 174 112 131 107 161 134 70 65 88 90
放火 140 79 53 84 69 79 32 44 30 66 36 30 29 23 19
火遊び 116 107 72 88 90 95 76 106 61 58 35 31 39 33 22
マッチ・ライター 46 62 40 65 59 60 32 34 27 53 26 37 31 51 26
焼却炉 36 19 13 27 21 19 9 31 11 31 18 18 17 13 10
溶接機・切断機 8 6 6 7 7
取灰(燃えかす) 12 7 13 5 13 5 11 11 14 16 10 12 11 11
こんろ 2 4 4  
電灯・電話などの配線 4 8 6 5 3  
排気管 5 2 7
その他 331 285 199 242 294 244 200 293 214 329 228 195 160 226 256
不明 359 352 224 368 223 326 206 322 138 255 207 171 140 158 167
合計 2,592 2,215 1,576 2,157 1,891 2,084 1,392 2,093 1,178 2,020 1,494 1,106 1,027 1,284 1,363

1.4 統計情報
 林野火災の統計情報は、林野庁では無く、消防庁で整理している。消防庁では、建物火災、林野火災、車両火災、船舶火災、航空機火災、その他に分類して情報を整理している。整理されている林野火災の主な情報は、以下の通りである。
・件数、死者数、負傷者数、延べ焼損面積、損害額
これらの情報を元に、項目毎に整理している。
・都道府県別出火件数
・時間帯別火災発生状況

・曜日別火災発生状況

・覚知から放水開始までの所要時間(5分単位)

・放水開始から鎮火までの所要時間(15分単位)

・林野火災火の出火から鎮火までの時間

・鎮火に24時間以上要した林野火災の鎮火時刻

・消火活動で利用した水利

・放水開始時間と林野火災の拡大状況

・風速と林野火災の拡大状況

相対湿度と林野火災の拡大状況(1995~2003年)

風速と林野火災の拡大状況(1995~2003年)


1.5 林野火災の実態
林野火災の頻度の多い岡山県(2014~2018年)のデータから、曜日別発生状況では、土日に集中していることがグラフから読み取れる。また、時刻別発生状況では、10時から18時までが全体の86%を占め、人の山の出入りする時間帯に多く発生していることが読み取れる。
全国データ(1995~2003年)になるが、林野火災の2/3は、1時間以内の鎮火となっている。しかし、12時間以上は490件、24時間以上は、164件である。拡大した際の消火活動の困難さが理解できる。また、24時間以上の場合の鎮火時間も調査している。グラフから読み取れるように、夕方の時間帯が多い。これは、15~17時かけて湿気が高くなるためである。これらのデータを人員の集中投入など消火体制に反映させている。

1.6 気象と火災拡大
 気象条件が林野火災に与える影響について理解しなければ、戦略的、効率的な消火活動が実施できない。また、飛び火対策として風の情報も重要である。このため、相対湿度と林野火災の被害の関係を明確にする。これらの情報を元に、消火作戦を立案している。

相対湿度と林野火災の拡大状況(1995~2003年)
風速と林野火災の拡大状況(1995~2003年)

4 林野火災対策の強化
海外の事例は、オーストラリアが参考になる。2003年1月に発生した南東部の林野火災後の取り組みを、参考にする。詳細は、各自で調べてほしい。
日本における林野火災の大部分が、たき火やたばこの不始末などによる失火が原因となっている。このため、林野火災に強い地域作りを目指し、災害予防計画を、市町村レベルで作成している。

・広報宣伝の充実
 林野火災の多く発生する時期に合わせ、春季火災予防運動の重点目標に「林野火災対策の推進」を掲げ、市内で広報活動を展開する。この中で、関係機関と林野火災防止推進の体制を確立する。(連絡網の確認、消火器材の確認など)
 ポスターや看板を、林道及び林内散策路、交通機関に掲げ、またパンフレットを配布して、住民に注意を呼びかける。
 さらに、学校教育において、防火思想を普及するため、標語、ポスター、作文などの募集を行い、学校及び家庭において防災思想の教育を行う。
 広報車、消防車による巡回広報を行う他、火入れを行う人に対し、火入れ値の周囲の状況や防火設備の計画など、十分な防火体制を準備するように広報をするほか、関係機関相互の連携を図るため、年1回以上の火災防御訓練を実施する。

・林野火災特別地域の指定
林野火災の発生または拡大の危険度の高い地域を「林野火災特別地域」に指定し、個別の対策を立てる。
具体的には、メッシュの入った地図「林野火災予防地図」を作成する。防火管理道の作成、防火線・防火帯を設置する。消防用貯水ダム・防火水槽の設置など、消防施設の充実を行います。さらに、自動音声警報機などを設置し、初期消火に必要な水嚢付き手動ポンプや、空中消火機材、空中消火薬剤などを整備します。林野火災が発生しても、素早く対応できるようにします。


(1998年岡山市作成)
林野火災実績箇所
は、出火場所
保安林
広域避難場所
主要道路
急傾斜地崩壊危険箇所
地すべり危険箇所
土石流危険渓流
緊急輸送道路(1次)
緊急輸送道路(2次)
緊急輸送道路(3次)


A-5-1:住所(地番) 車谷橋 D-2-2:住所(地番) ●●マンション
A-5-2:住所(地番) 高圧鉄塔(256番) D-4-3:住所(地番) ○○神社
B-3-1:住所(地番) A山山頂 E-1-1:住所(地番) ▲▲墓地
B-4-1:住所(地番) 高圧鉄塔(75番) E-2-2:住所(地番) 溜め池(750トン)
B-4-2:住所(地番) 高圧鉄塔(76番) E-4-2:住所(地番) 貯水槽(10トン)
B-5-1:住所(地番) バス停北側貯水槽 F-4-2:住所(地番) 弁天の滝
C-4-1:住所(地番) B山山頂 G-4-1:住所(地番) ××寺
一例を紹介。外部からの応援は地元に詳しくない為、迷子にならないようにメッシュ毎に何があるか分かるようにしている。(東大阪市消防局作成)

・情報の収集・連絡体制の整備
 特に、気象の実況の把握に努めるため、天気に関する情報を収集する部署を設置し、適時的確な情報収集に努める。

5 広報活動
林野火災は、森林への入山者1人1人が火の取り扱いを注意することによって、その大部分は防止することが出来ます。このため、啓発活動によって入山者のモラルの向上を図ることが重要です。
レクレーション地域においては、人出が予想される時期を中心にして、チラシやパンフレットを配布する。統計に基づき、火災シーズンで休日・祭日が乾燥するときには林野火災が発生する可能性が高いため、航空機を使って空から注意を呼びかけるのも効果的である。
7 消防訓練
7.1 訓練目的
地域防災計画や消防計画に基づき、林野火災の消防訓練に消防機関・地元協力隊(消防団)・森林部門の出先機関・地元企業・自主防災組織など多くの機関が参加することが望ましい。特に、大規模林野火災を想定した訓練は不可欠であり、乾燥・強風下において林野火災が急速に集落に接近する火災を想定して、住民や各機関の役割を明確にしつつ訓練により消火技術の向上を図ります。

また、過去に大規模な林野火災のあった県においては、消防訓練を年1回以上実施する必要がある。

7.2 訓練項目
実施すべき訓練内容
①消火方法、防火線の構築などの防御活動技術の向上
②消防機器、消防水利など消防施設の利用
③招集・出動態勢の迅速化
④指揮体制の確立
⑤応援態勢の確保
⑥通信連絡・避難誘導技術
⑦補給活動の円滑化
⑧負傷者の救出・救護
⑨現場指揮本部及び合同指揮本部の設置
⑩航空隊の応援要請
⑪地上消防隊と航空隊との連携方法の習得
⑫消防防災ヘリコプターによる消火活動の手順の習得

これらの図上訓練、実地訓練の実施
気象条件や火災の発生場所が異なると、延焼動態や火災への現場指揮本部の対応も異なる。このため、訓練場所・火災想定などを変えて、定期的に訓練を行う。




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