きこりの森林・林業の教科書

⑪森林からの恵み

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農地と防風林

生活に密接した森林の一つが防風林です。今後、砂漠周辺や海岸でも今まで以上に防風林の機能が重要視されると感じています。何故なら、森づくりへの支持、森の維持管理の必要性を理解してもらうためには、防風林の機能は分かりやすいです。特に、風による農地の表土流出の抑制、そして経済林経営では、風から収穫前の果実を守る等です。場所によっては、住居地周辺に防風林を設置する事で、生活環境が改善される例もあります。
日本でも、ヨーロッパ、アメリカでも森林を開拓し、農地を広げた結果、風害によって農地の収量が減り、また表土を失うことで土地の劣化を経験してきています。砂嵐の被害に悩まされたりしました。このため、開発から持続的な生活環境の維持のために、防風林を作りました。特にデンマークは成功しています。
北海道は、開発に伴う被害軽減のために、アメリカの農務局長を招いて、技術指導を受けた歴史もあります。日本の他の地域は、夏の台風の被害や、冬の日本海からの強風等の被害を経験していたため、その地域独自の防風林が形成され、維持されてきました。台風の被害がほとんど無い北海道では、防風林という概念が定着しないまま、開発が行われました。結果、広大な農地が誕生したのですが、数年後には収量の低下など、農業の維持が困難な状況にまで追いやられました。北海道の農業開発は、大規模なアメリカ式の農業技術の導入であったため、アメリカの知恵を借りることになったのです。このため、北海道の防風林は、写真のように、アメリカ型の防風林です。
 
さて、防風林の機能ですが、風の動きを無視してはいけません。風が防風林に直角に当たった場合、通風性のある防風林の場合は、風の一部は防風林の中に侵入する一方、他の部分は防風林の上に変流します。風の流れが分岐することにより、滅速された風の帯が出来ます。これは、防風林の構造と高さに規定されます。

一方、通風性のない防風林は、直接の後背地に対しては、大きな防風効果をもたらしますが、渦流作用によって、有効帯が比較的短いことになります。
このため、風速の適切な滅殺効果を得るためには、①通風性のあること、②適当な幅と形を持つこと、③大きな高さを持つことが理想となっています。適切な防風効果を得るためには、地表部から先端部まで、ほぼ均質な密度を持つ植生によって防風林が構成されていることが重要です。しかし、基本的な事を忘れて、防風効果の弱い防風林が作られる事があります。せっかくの防風林の機能を弱くさせる事もあります。一つの事例ですが、防風林システムでは、防風林と防風林が交わるギャップは避けなければなりません。小さなギャップでも、ギャップを通った風が発散するため、防風林の大部分の効果が消滅されます。このため、防風林が道路、歩道、灌漑路などと交差する場合は、斜め状の開口部として作るべきなのです。日本でも、何も考えずに防風林を横切る道を作り、効果を弱めている場所もあります。
防風林のギャップを通過する風の発散作用。水色部分が風から守られている。   防風帯を横切る道にも気を付けます。風が強さを落とすためにも、ギャップを開けないように注意する必要があります。
これらの問題は、防風林を作ったときより、防風林を受け継いだ、次の世代、次の次の世代の利用者で起こる事が多いです。防風林が無かった頃の苦労を知らず、防風林は存在している事が当たり前で、防風林についての理解が低いからです。

一般的な防風林の姿ですが、半乾燥地あるいは灌漑不要の亜湿潤帯の地域では、通常5列植栽の防風林が造成・育成するのに有効であるとされています。これは、経済的、かつ広い面積を必要としないからです。一方、灌漑の必要な極端な乾燥地では、1列、多くても3列植えが採用される傾向があります。ただし、1列植えの防風林は、欠損部が拡大する恐れがあるため、危険です。
典型的な5列植えの形。中央列、側方列、林縁列となる。林縁列は、灌木の場合が多い傾向があります。そして、一般的に、防風林は、後背地において、防風林の高さの20倍までの地域を保護すると言われています。

基本的に、防風林は、一定方向の風に対して造成されます。風向きと直角方向の防風林帯を平行して造成します。しかし、色々な方向から風が来る場合は、市松模様(チェッカー盤柄)で作る必要があります。

市松模様で配置          直角方向で配置
なお、北海道の風では、樹高の35倍まで効果がある場所があり、そこでは、樹高15メートルの木に対し、525メートルの幅を計算上算出しています。実際には、300から450メートルの幅で防風林を作っています。もちろん、地形や建物、それ以外の森林の存在などの風上の状態によって適切な幅を維持します。地域によって風の種類は違います。また、植栽されている樹種も違います。時間がかかりますが、その地域に適した防風林を作っていかなければなりません。

防風林の効果ですが、北海道における防風林の有無による増収効果のデータがあります。防風林があると無いとの収量の差は歴然です。
防風林の有無 年代 作物名 kg/10a
牧草 燕麦 大豆 玉蜀黍 人参
無し 1907-1911 252 109 88 103 1008
有り 1932-1936 494 165 186 367 1372
収量増加率 96 51.4 111.4 256.3 36.1

表のように数値でも防風林の効果は分かります。この様に、農業のために活躍している防風林ですが、維持管理する中で問題が無いわけではありません。問題を発生させないために「耕地防風林管理条例」という条例があります。参考にあげるのは、北海道の南幌町の町内の条例です。最小行政単位独自の条例です。1960年に町議会で決められ、町民はこれを、公共性を維持するために、守っています。時代が変われば、改正します。1962年、1965年に、改正され、今に至っています。

○耕地防風林管理条例
(趣旨)
第1条 耕地防風林(以下「防風林」という。)の育成管理については、この条例の定めるところによる。
(定義)
第2条 この条例において防風林とは、町が造成し又は管理する防風林をいう。
(防風林の保護)
第3条 防風林の育成管理を助長するため、附近住民は常に樹木を保護し、異状があることを認めたときは、直ちにその旨を監視人又は町長に申し出なければならない。
第4条 町長は、防風林の育成管理を徹底するため、監視人を設けなければならない。
2 前項の監視人には、年報酬を支給するものとし、その額については、予算で定める。
第5条 防風林の区域内において、次に掲げる行為をしてはならない。ただし、町長の許可を受けた場合は、この限りでない。
(1) 作工物の建設
(2) 家畜の放牧
(3) 樹木の伐採、敷地の侵墾等
(4) その他樹木に被害を及ぼす行為
第6条 防風林の育成に必要な技打及び雑草の採取は、地元住民に限り無償採取させることができる。ただし、間伐木及び15年以上の古損木等については、この限りでない。
(損害賠償)
第7条 第5条各号に違反したときは、損害を賠償しなければならない。
(雑則)
第8条 この条例のほか、必要な事項は、町長が定める。

この他にも、北海道の芽室町では1957年に、条例を作り、何度も改訂しています。

○耕地防風林管理条例
(目的)
第1条 この条例は、芽室町耕地防風林(以下「防風林」という。)の造成管理処分などについて適正なる措置と指導奨励を行い、農地の保護及び生産増加に寄与することを目的とする。
第2条及び第3条 削除
第4条 幹線は、道路法(昭和27年法律第180号)の定めるところにより許可なくして個人が植栽することができない。
(伐採制限)
第5条 防風林は、農地の保護及び災害防止のため主伐間伐を問わず、別記様式による伐採許可申請書を町長に提出しなければならない。
2 町長が前項の申請書を受理し、適当と認められるときは許可書を交付する。
3 第1項の申請者は、許可書の交付を受けた後でなければ伐採してはならない。
(造成と更新方法)
第6条 防風林の伐採については、全町造成及び更新伐採計画を定めその方針によるものとする。
第7条 削除
(植栽及び補植)
第8条 防風林の伐採後は、早期に植栽しなければならない。植栽奨励については町長が別に定める。
(委任)
第9条 この条例の施行に必要な事項は、規則で定める。

芽室町の防風林
このように、地域の防風林について取り決めを行っています。森林面積が増え、生活環境が安定してくると、森林を造成した人々は去り、世代が交代し、当時を知らない人たちが地域の主役になります。この時、森林を減らし開発しようとするのが、古今東西問わず、人の行動パターンです。このため、先人の偉業を維持するために、この様な条例を市町村レベルで作っているのです。この背景には、所得向上のために、農地拡大による防風林を破壊する事例があったからです。防風林を撤去したものの、再び収量が落ち、再度作り直す事もあります。防風林が出来上がるのに、北海道では20年近くかかります。しかし、伐採は数分で終わります。
また、防風林も一定の間隔で更新されます。健全性を維持するためです。伐採木の収益をどのように半分するかの取り決めがなければ、騒動の原因になります。騒動が発生させないためにも、この様な条例は有効です。

 日本では、土地利用を簡単に変更させないための知恵として、条例があります。皆さんが作っている森林、先輩が作った森林の価値は守らなければなりません。今の住民のためだけではなく、未来の住民達のためにもです。



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